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2006年2月 1日 (水)

スコットランドのアイルランド人

スコットランドプレミアリーグには、3つのアイルランド由来のチームがある。一つは、グラスゴーにあるご存じセルティック、エディンバラにあるヒバーニアン(ヒバーニアンは、クロアチア・ザグレブを戦力外になったカズが一時テストを受けるためにトレーニングに参加していたチームでもある)であり、もう一つはダンディ・ユナイテッド(かつての名前は、ダンディ・ヒバーニアンさらにその前は、ダンディ・ハープだった)である。

ここで辞書を引いてみよう。セルティックは、Celticとつづり、もちろん”ケルト人”とか”ケルトの”という意味である。そして、ヒバーニアンは、Hibernianと書いて、”アイルランド人”とか”アイランド人の”という意味である(Hibernia はアイルランドのラテン語名)。意味を調べてみるとアイルランド人のチームというのがよりはっきりとわかる。

では、なぜアイルランド系とすぐにわかるような名前がついたチームがスコットランドの都市にあるのだろう?これには歴史的な背景がある。歴史といっても、5世紀に遡って、アイルランドからケルト系民族がやってきたことに由来するわけではない。もっと時代が下って19世紀になってからである。折しもスコットランドを含む英国では産業革命の好景気を維持し、当時は英国の植民地だったアイルランドが、ポテト飢饉と言われるほど、主食のジャガイモが不作で、飢えた人々がイングランド、スコットランドはいうに及ばず、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどへ、”食と職”を求めて沢山の人々が移住したのである(いまでもアイルランドは、この時の人口を回復していないとされている)。

スコットランドにも沢山のアイルランドの人々がやってきたけれど、ありつける仕事は低賃金の単純労働ばかり。他のイングランド各都市に移住したアイルランド移民同様に、劣悪な住環境と労働環境に身を置かねばならなかった。当時の都市に住む貧民の暮らしのひどさはいまからは想像もつかないほどだった。今のきれいなエディンバラ・オールドタウンからは本当に想像ができないけれど、19世紀半ばには、オールドタウンはスラムと化していたし、ウェイヴァリー駅横のきれいな公園があるあたりは汚水がたまった池だったのだ。そして、アイルランド移民はカトリック教徒がほとんど。すでにプロテスタント化が終わっていたスコットランド(特にローランド)では、カトリックは宗教的にも身の置き所がなかった。しかし、彼らはカトリックであることをやめず、宗教的ないさかいが起きることもあったという。彼らが団結するのには時間がかからなかった。いまでも、その宗教の違いを”口実”にして、暴力沙汰が起きることだってあるぐらいなのだ。

そんな中で Hibernian がエディンバラで1875年に、Dundee Harp がダンディで1878年に、Celtic はグラスゴーで1887年に結成されている。エディンバラで結成されたヒバーニアンは、アイルランド移民達の中でサッカーが好きな人々が集まってできたチームだった。このチームができたおかげで、ダンディやグラスゴーに暮らすアイルランド系移民の人々も、じゃ自分たちもと、相次いでチームができたわけである。サッカーは当時も人気のスポーツで、クラブは順調に経営をたちあげることができたようである。ただし、ダンディ・ハープは1906年に解散し、すぐにダンディ・ヒバーニアンが結成された(1923年の経営危機のタイミングで、より広い支持層を獲得するために Dundee United 改名した、本当は Dundee City とかにしたかったみたいだけど、同じくダンディにあるライバルチーム Dundee F.C. の反対もあってネーミングには苦労したようだ)。

そして、エディンバラのサッカークラブの成功を見ていた、グラスゴーのカトリック教会神父の Walfrid という方が、なんとかチャリティの基金にならないかと考えて、グラスゴーにアイルランド系のサッカークラブを作ることを思いついたのである。これが今の Celtic である。つまり、当時のセルティックの結成の目的の一つは、貧しい子供達へのチャリティのための資金集めだったのである。この Walfrid 神父もエディンバラやダンディにならって、グラスゴー・ヒバーニアンという名前にすることも考えたけれど、スコットランド人とアイルランド人は、もともと同じケルト系で仲良くすべしという考えから、その両者の意味を込めて、Celticという名前にしたということである(すばらしい!)。そして、セルティックは結成直後の1888年5月2日に、レンジャースと”親善試合”を行っている(試合は5-2と勝利した)。

移民してきた多くのアイルランド人が、貧しさの中でささやかな楽しみとしてはじめたサッカークラブ。そして、貧しい同胞をなんとか助けたいと思ったカトリック神父が考え出したクラブ。それが、スコットランドの中のアイルランド系チームの始まりだった。いまでも宗教と民族の対立が完全になくなったわけではなく、レンジャースとセルティックの試合では、サポーター同士だけでなく、ピッチ上の選手達のけんかがおきてしまうこともないわけではない。でも、セルティックという名前を採用した神父の精神をぜひ思いだしてプレーし応援してほしいと願う。次のオールドファームは2月12日にある。

お詫び
これまで、Hibernian をハイバーニアン、Dunfermline をダンファームリンと書いてきましたが、それぞれ、ヒバーニアン、ダンファームラインの方が正しい発音のようですので、今後は正しい発音通りの表記にしたいと思います。

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